不勉強

立花隆の「イラク戦争 日本の運命 小泉の運命」という半年前に出版された本を午前中に購入し、実験の待ち時間を使って一気に読了。自分の日本近代史に関する不勉強を思い知らされ、非常にタメになりました。


例えば、なぜ日本は高度経済成長を遂げ、90年代以降不況に陥ったのか。日本人が頑張り屋さんだったってのも多少はあれども、まー大雑把に言って、外部状況的にはアメリカが冷戦してたから日本は繁栄し、冷戦が終わってアメリカが日本を叩いたから不況になったということ。内部システム的には、日本は官僚主導経済という名の全体社会主義国家であったからです。もちろん、ここまでは誰でも良く知ってる話。んじゃその官僚主導経済ってのはどこから来てるのか。これは1940年から始まった戦争遂行のための統制経済国家総動員体制がそのまま生き残ったものなわけです。う〜む、こりゃ気がつかなかった。なるほど、そう考えると今まで釈然としなかったものに合点がいきます。


歴史の面白さはさらに続きます。この統制経済というヤツは満州経営のシステムを転用したもので、満州経営の中心人物だったのが、あの石原莞爾であり、北一輝らの右翼的国家社会主義の流れを汲む岸信介であり、特に重要な役割を果たしたのが満鉄調査部にいた宮崎正義という人でした。宮崎正義はソ連研究の専門家で、当時奇跡的な成功を収めたソ連の第1次5カ年計画をつぶさに観察し、満州経営に活かしたということなんですね。なお当時の満鉄というところはおおらかで、日本から逃げてきたマルクス主義者の受け皿にもなっていました。つまり日本の高度経済成長を生み出した国家社会主義体制は左右両翼の社会主義をゴチャ混ぜにして和風にアレンジしたものだったということになります。いやー面白いですね。そして、その1940年体制が機能不全に陥ったのが90年代初頭というわけです。塩野七生が言うように、一国家に隆盛をもたらす原因と衰退をもたらす原因というのは得てして同一なのでしょう。


また、アメリカが押し付けたというには非常に不自然なあの憲法9条は、本当のところ誰が作ったのかと言う謎について。1946年の1月24日に幣原首相がマッカーサーと通訳抜きで3時間にも及ぶ対談をした内容そのものについて第三者による記録はありませんが、なにぶん当事者であるマッカーサーの回想録に述べてある以上、憲法9条は幣原の意見を汲み入れたというのが正史ということなります*1。不勉強ながら全然知りませんでした。うーん、恥ずかしい。


本書では、こういった様々な歴史を捉え直しつつ、イラク戦争の今後、日本の今後について言及しています。かなり面白いので、御一読をお勧めします。

*1:もちろんGHQ側としては、単純に意気に感じてというわけでなく、日本統治のために天皇制の維持が不可欠と考え、天皇戦争犯罪人として裁判にかけないことを米議会や他の戦勝国に納得させるために、憲法9条を必要としたという話もありますし、マッカーサー回想録は間違い・自己宣伝・自己美化的記述も多く史料としては信用性が低いという話もありますが、このエピソードについては捏造する必然性がほとんどなく、反証に足る別の直接的記録はないのです。