日本ーオーストラリア

すげぇ。目覚まし時計がなる2分前の4時58分に自然に目が覚めた。


いざ、カイザースラウテルンヘ。


行きのICE(Inter City Express)の中で、今日フランクフルト空港に降り立ったセルティック・サポの二人組に出会った。ジイサンの方は背中にNAKAMURA、胸には日の丸とカタカナで「セルティック」。これは話しかけないワケにはいかない。


「日本代表にようこそ。君らが合流してくれて心強いよ。ありがとう」
「多くの日本のファンが君らのゲームを真夜中にTVで観てるよ」
と言ったら、彼らは照れくさそうにしていた。
「今日は中村のFKから日本がゴールを奪って勝つだろう」
と話して、さよならした。


カイザースラウテルンの駅を降りて、スタジアムへ。席のゾーンによって交通規制があり、かなりの回り道を強いられた。とにかく暑い。日差しの下にいるだけで汗が出る。


試合開始前、スアジアム内の大型画面にピッチ上の気温が映し出された。なんと38℃。マジか? 体温より高いじゃねーか。この数値が何かの間違いでも、確かにドイツで今年一番の暑さであり、この過酷なコンディションが試合に大きく影響する事は間違いない。


98年以降、もう若くもなく、席取りに並ぶ時間的余裕もないので、ゴール裏に行く事はなくなっていたが、今回ばかりは席種に関係なく、8年ぶりの超本気モードだ。この日の観客席を見回すと、炎ユニの古参兵が結構いた。ストライプユニを着ているヤツも。





試合の内容について、監督については、特に今書きたい事は無い。可能な限りの声を振り絞ったつもりだったが、力を与えられなかった。試合後、しばし呆然とした。





スタジアムの帰り道の渋滞の中をチンタラ歩くのは嫌いなので、脇道にあったホテルのカフェレストランに避難。糞不味いビールを一杯飲んだ。


すぐにオージー達の一団も入ってきて、ビールを飲みだした。彼らの楽しむ姿を見せつけられて、ますますこっちは一人ズドンと沈んでいく。


それでもこのまま去るのは男としてイカンと思い、近くに座っていた3人組のオージーのオッサン達に、”Hey, Aussie guys, congratulation today.”と呼びかけたら、俺と同じくらいの酷い嗄れ声で口々に「今日、お前らはハードラックだったな」と、握手を交わしてきた。


"But, we never give up until final moment. Let's beat Brazil out together and see you again in the tournament." と話したら、オージービーフ達も、一緒にブラジルを倒して、トーナメントに行こうぜと盛り上がってくれた。


"Next time, we will win against you in the tournament. Good luck, Aussie. Bye."と、カッコワルイ負け惜しみを残して店を出た。


しかし、悔しさマキシマムな一方で、こちらと同じように、喉を枯らすまで応援していた彼らに、強い親近感を覚えたのも事実だ。


カイザースラウテルンの街へ戻ってみると、そこはオージー達の宴会場だった。日本人は2割くらいしか見かけない。スタジアムにはあんなに沢山いたのに。


しばらくフラフラと行く当ても無く歩いているうちに、その割合は減少して1割近くまで落ち込んだ気がする。みんな、居たたまれなくなって、とっとと他の都市へ移動したり、ホテルにでも帰ったんだろうか。逆にオージー達は、こんなにスタジアムにいたのか?というほど、メインストリートを埋め尽くしている。


大画面でチェコvsUSA戦を映していたファンフェスト会場で、セルティックの二人組に再会。「残念だったね」と慰められた。


オージー達は楽しげだが、こっちは楽しくもなんともない。俺も、こんな街は抜け出すことにした。マンハイムで腹に食い物を放り込み、イタリアvsガーナ戦をボケーっと眺めながら、全く別の事を考え込む。不味いビールをチビチビ飲んで、ICEの発車時間を待った。


さすがに23時を過ぎると、人もまばら。深夜にフランクフルトまで来ると、アメリカの敗残兵も見かけた。試合に負けた夜に一人旅する男達は、なんとも疲れ果てたオーラを身にまとっている。ジャングルを彷徨する落伍兵のように。


フランクフルトから夜行列車でベルリンへ。座席は大きめで良いのだが、全ての照明がずっと灯りっぱなしで、おまけに空調が寒い。タオルマフラーをアイマスク代わりにして、日の丸にくるまって寒さを凌ぎつつ、どうしようもない腹立ちを寝かせつけた。






98年のトゥールズでも、こんな気分だった。日本ごときに1−0で勝ったくらいで、狂ったように踊り騒ぎ、街を占拠するアルヘンティナ達に驚くと同時に、改めて悔しさが込み上げてきて仕方が無かった。だが、あのときと違って、今回は、残りの試合も俺は参戦できる。それが素直に嬉しい。


次の試合に勝つ。ただそれだけ。他は何も考える必要はない。


俺は、スタンドからもっと大きな声を送る。それしかできないが、それを精一杯やる。


本気で応援していれば、負けたときに深刻に落ち込むのは当然だし、深刻に落ち込まなければ、勝ったときに心の底から爆発する喜びは得られない。


この3年間、ずっと監督を批判したり揶揄したりしてきたけど、W杯を戦う今、代表が逆境に置かれた今、俺にとって重要なのは、代表が何をしてくれるかではなく、自分が代表に何をできるかだ。