読了

夜と霧 新版


ヴィクトール・E・フランクルの、世界で600万部以上読まれたという名著『夜と霧』を今さらながらに読了。著者は、ユダヤ人として第2次世界大戦中の強制収容所に囚われ、両親・妻・子供を失いながらも、戦後まで生き残ることのできた心理学者。収容所での人間心理を描写している。初版は1947年。この本は77年の改訂版に基づく2002年の新訳。


囚人達の中から選ばれた囚人監督者(カポー)が、SSの看守よりも激しく囚人を虐待したという事実には、なんとも考えさせられる。また、生存競争の中で良心を失い、盗みや暴力を働く者も多かったという。

私たちはためらわずに言うことができる。いい人は帰ってこなかった、と。


この本では、特殊な状況下での特殊な心理だけについて述べているわけではない。もっと深く、時代や状況を超えた、普遍的な人間存在について著者は考察していく。

わたしたちは生きる意味というような素朴な問題からすでに遠く、なにか創造的なことをしてなんらかの目的を実現させようなどとは一切考えていなかった。わたしたちにとって生きる意味とは、死もまた含む全体としての生きることの意味であって、「生きること」の意味だけに限定されない。苦しむことと死ぬことの意味にも裏付けされた、総体的な生きることの意味だった。

わたしたちが生きることからなにを期待するかではなく、むしろひたすら、生きることがわたしたちからなにを期待しているかが問題なのだ、ということを学び、絶望している人間に伝えなければならない。

飢えと寒さと蔓延する病気に苦しめられ、虐待され、骨と皮だけに痩せ衰えて、次々と仲間が倒れて死んでいく状況で生み出された、これらの言葉は重い。


他にも多くの印象深いエピソードや、ズシリとくる言葉に出会える。全ての人にお勧めできる本だ。